スタッフコラム

コロナ禍を振り返って

木下歯科医院 院長 木下 亨

 2年に及ぶコロナ禍もそろそろ終わりを迎えようとしています。5月の連休にはコロナ前と同じくらい人が行き交うようになり、夏休みを控えて皆様もいろいろ計画があることかと推察致します。ようやく日常が戻ってきたことを喜ぶ反面、今年は暑い夏になりそうで、新たな感染症の発生が心配なところです。
 
 今回のような大規模な感染症の蔓延で日常生活に支障をきたしたのは私も初めてですが、感染症の歴史は古く、近いところでは、第一次世界大戦時、スペイン風邪といって中立国であったスペインが、新型ウィルスによる風邪の流行を発表したため、こんな名前がついたようで、発生地は不詳ですが、この大戦で欧州に派遣された兵士を介して、世界に広まり、5千万人が死亡したとも言われています。また、先の太平洋戦争でも南方の日本軍は、戦地が感染症の多い劣悪な環境であった事に加え、兵站が整っていなかったことが重なり、戦死者よりも、感染症で亡くなった人や餓死者の方が多かったようです。
 
 以前、この欄や園誌「樫の実」で触れたように、虫歯は、感染症ではなく、歯肉炎、歯周病も感染症というほど重篤な病気ではありません。なぜなら原因菌が常在菌といって昔から口の中にいる菌だからです。だから薬やワクチンなどでは対応せず、昔から歯磨きで対応しています。これから暑くなる季節は、いろいろな感染症が発症する可能性があります。マスクだけが予防方法ではありません。手洗いを第一に、歯磨き、うがいなども予防の一助になります。是非コマメに行ってください。
 
 話は飛んで、卑近な例で恐縮ですが、私の父が今年5月で百歳となりました。ところが、百歳まであと8ヶ月という時にこのコロナに感染して40日あまり入院後、無事生還を果たました。生まれた頃は、先ほどのスペイン風邪はもう収束していましたが、大震災、世界恐慌、日中戦争、太平洋戦争と激動の時代を生き抜く逞しい力があったと思います。父については、下記にまとめましたので、ご一読ください。
 また、樫の実幼稚園の検診に寄せて、お子様のブラッシングの注意点についてまとめましたので、ご覧ください。


お子様の
ブラッシングの注意点

 

①歯ブラシは小さめのものを選びましょう。(歯ブラシの毛の1束をタフトといいます。幅はタフト3列で長さは10〜15mmくらいのものが良いと思います)
②小さく振動させ1〜2本ずつ磨くようにしましょう。(たくさん磨こうとすると歯や歯肉を傷つけ、磨き残しもできます。)
③歯と歯の間、前歯の裏側、下の奥歯の内側に磨き残しが多く見うけられます。
④鉛筆を持つように歯ブラシを持つ(保護者の方)と適度な力で細かなところまで効率よく磨けます。
⑤朝はもちろんですが、特に夜の歯磨きは丁寧に行って下さい。
⑥小さなお子様には基本的には保護者が歯磨きをしてあげて下さい。年長くらいからは、自分で歯磨きができるようにしていきましょう。「プラークの見える液体歯磨き」という便利な歯磨き剤がありますので汚れの落ち具合を確認しながら子供に歯磨きの練習をさせるのも良いかと思います。(保護者の方も楽です。)
 
「むし歯に治癒はありません」このことを忘れないで下さい。今からきちんとした歯磨きの習慣を身につけることは家庭でできる教育という面からも非常に大切なことなのです。


百歳を迎えて

木下歯科医院 院長 木下 亨
   私ごとですが、父 木下諒三が6月1日発行の「日歯広報第1791号」に取り上げられました。父はここにあるように大正11年生まれです。

 
 明治維新という大変革をなして、江戸時代にピリオドを打ち西洋近代化へと大きく舵を取り、日清・日露の戦争に勝ち、アジアの大国として世界にデビューをしました。 大正時代というのは、この後の太平洋戦争に突入する昭和という時代との間にあって、少し凪いだ一時であったような気がします。
 
 この年、明治維新の立役者の一人で元勲として名を馳せた、国民には人気のなかった山縣有朋が亡くなり、また関東大震災、世界恐慌と続き、暗い時代へと突入する分岐点となった年ではないかと思います。因みに日本共産党結党、ソビエト連邦が誕生したのもこの年でした。

 

 いろいろな方からお祝いの言葉をいただきながら、父が百歳を迎えたことを歓んでおりますが、永らく父親の介護に携わって、実は長生きは必ずしも本人にとって幸せなことではないなと感じています。
 
 思うように体は動かず、長く連れ添った妻、親しかった友とも別れ孤独な毎日の連続でした。そこにコロナで私もなかなか会いには行けず、思考や感情、意識を司る機能が低下していることがせめてもの幸いだったかと思います。
健康で、長生きとはあくまでも「理想」という実態のないものであって、現実的だとは言い難いというのが正直なところです。
 
 ただ私の父の場合は、「鰻」が食べたい、「ステーキ」、「天せいろ」が食べたいという食欲がありましたので。それが唯一の楽しみとなって、無味乾燥な毎日でも希望、生きがいとなったのではないかと思います。
 
 一方で母親は父の8歳下ですが83歳でこの世を去りました。こちらは自力では食事ができず、胃瘻も不可能であったため鼻から栄養をとっておりましたが、ただただ生きている(死んではいない)というだけで、毎日が辛そうでした。
 
 その母も最期は家族にも言葉も発することができず、バイタルのサインを機械で観ての死亡となりました。死を迎えて却って、安らかな表情となり、本人のみならず見送った家族も安堵したのを覚えています。
 
 経済的にも豊かで、戦争もなく、医学も大進歩した日本で超高齢化が進むのは当然の帰結のように思います。私も64歳を迎え、世の中ではいわゆる定年の年、老後の入り口に立ちました。改めて父親の歳を思う時、そう簡単に祝う気持ちにはなれません。
 
 齢を重ねて体の機能が低下して自分でできなくなることが多くなるのは当たり前ですが、食欲があって食べたいものがある、また家族や親しい人と少しでも話を楽しむことができれば、前向きに生きていけそうな気がすると、父親を見ていて感じました。また、死は本人にとってよりも残されたものへのダメージが大きい反面、百歳を超えて長生きするということは、他ならぬ本人にとっては非常にタフで辛い事ではないのかと百歳を迎えた父を寿ぎながらぼんやりと考えておりました。


改めて考えた「生命」と「生活」

 

木下歯科医院 奥 麻衣子

2020年は健康で生活できることのありがたさを改めて考えさせられた1年だったと思います。
コロナウイルス感染症拡大の影響を懸念して、歯科健診は6月から10月に延期され、しかも健診当日は園児の皆さんの挨拶も小さな声で始まるという徹底ぶりで、普段元気なみなさんの行動をかなり制限した緊張感溢れる異例の中での開催となりました。しかしむし歯の数は例年と変わらず少なく、保護者の方の健康に対する思いを改めて強くした次第です。
マスクが季節を問わず日常生活のコモディティーとなってだいぶ経ちますが、マスクをすること(と手洗い)が、外界からの悪影響から身を守るということに有益であることは、十分に実証されたように思います。しかし一方ではやはり息苦しいこと、外からの空気の供給が絶たれるため口腔内の嫌気性菌(空気がある環境下では活動を抑制される菌、つまり空気のない環境下だと活発になる)の活動が活発になることの悪影響の懸念もあります。しかし総じて今回の騒ぎではマスクと手洗いが外敵の侵入に対して圧倒的な効果があったと言えるのではないでしょうか。
冬は空気が乾燥してインフルエンザが大流行するのが例年の習いです。ところが、今年はマスクと手洗いが功を奏してか感染を抑制できたようです。歯科予防の観点からは、マスクの着用は口腔内の乾燥を防ぎ、潤いを保つという利点はありますが、長時間の使用によって口の中のネバネバ感が増し、嫌気性菌の活動が逆に活発となって繁殖した結果、口臭は強くなります。適切な水分補給と意識的に口を大きくと動かすことは口臭予防には効果的です。また舌を動かすことによって、唾液の分泌は促進されます。キシリトールのガムやタブレットを利用することでさらに効果はあがります。ストレスや自律神経の乱れも口臭の原因となるともいわれているので、自粛中ではありますが時にはマスクを外すこともお勧めします。
口はただ栄養摂取のためだけにあるのではありません。家庭では親子、兄弟での会話、幼稚園では先生や友達の会話というとても大切な働きをするところです。今回の騒動では後者の方は極力制限され、私たちはこれまでにない非常に不自由な生活を強いられてきました。今思えば、感染が拡大した今年のはじめ頃は、生死の問題で自粛もやむを得なかったかもしれません。しかし最近はどうでしょうか?確かに感染者数、重症者数も増えてはきていますが、私たちの身の回りを眺めて見ると果たしてそんなに危険な状態なのだろうかと疑ってみたくもなりますね。
国立感染症研究所の発表では今年度の超過死亡者数は現時点でマイナス25,000人だそうです。つまり例年に比べてこれだけ死者が少なかったということなのです。私たちにとって「生命」は亡くすことができない大切なものであることは論を待ちません。かといって人々が集う毎日の「生活」もとても大切です。もうそろそろ「生命」から「生活」へと視点を変えてこの問題に対応すること、つまり医学という「自然科学」だけではなく経済学という「社会科学」の力も動員してこの問題に対処してもいい段階になってきたのではないかと私たちは考えています。皆さんはどう思いますか?

(樫の実幼稚園 園報 令和3年2月8日号 掲載)
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